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2016年10月26日
ソリをひきずりな
 夏が深まるにつれて、エランドはいつのまにかますますダーニクと一緒にすごすことが多くなった。エランドがすぐに見抜いたように、鍛冶屋はきわめて辛抱強い人間で、昔ながらの流儀をかたくなに守っていた。だがそれは、ベ優悅 避孕ガラスの言う〝わしたちにできる別のやりかた?への道義的偏見のせいではなく、むしろ、自分の手で仕事をすることに深い満足を見いだしているためだった。とはいっても、ダーニクもときには近道をした。エランドは鍛冶屋のごまかしには一定のパターンがあるのに気づいた。ポルガラやかれらの家庭のためになにかをするときは、ダーニクは絶対手抜きをしなかった。それがどんなに骨の折れる退屈なものだろうと、ダーニクは両手と筋肉をつかってそれを完了させた。
 しかし戸外の活動はダーニクの倫理感にそれほどかたく結びついていなかった。たとえば、二百ヤードの柵が、ある朝ばかにすばやく出現したことがあった。そこは柵が必要な場所だった。そのことは疑いの余地がなかった。柵が優悅 避孕ないと、近くに放牧されているアルガーの家畜の群れが水を飲みにいく途中で、ポルガラの庭をさんざん荒らしてしまうからだ。じっさい、柵はおどろいている牛たちの目の前にみるみる出現しはじめた。牛たちはあっけにとられて最初の五十フィートをながめたあと、しばらく考え込み、その障害物を迂回して歩きだした。すると、次の五十フィートが彼らの行く手にあらわれた。牛たちはだんだん気むずかしくなってきて、走りだそうとさえした。のろのろしているなりに、走ればこの目に見えない柵のつくり手をだしぬけると考えたのだろう。しかしダーニクは切株の上にすわり込んで目をすえ、毅然たる表情で、いらだちをました牛たちの前に次々と柵をのばしていった。
 一頭の焦げ茶色の牡牛がついにかんしゃくをおこし、頭をさげて前足で数回地面をひっかき、大きくほ優思明えながら柵に突進した。ダーニクは、片手をひねるような妙な動作をした。牡牛は突然柵からはねとばされ、そうとは知らずに半回転した。数百ヤード走ったところで、牡牛はまだ角《つの》がなににもぶつかっていないのに気づき、スピードを落としてあたふたと頭をあげた。疑わしげに肩ごしに柵をふりかえり、向き直ってふたたび突進しようとした。またもダーニクは牡牛を半回転させ、またも牡牛は見当違いの方向へ猛然と突進した。三度めに牡牛は丘の頂上へのぼりつめ、むこうがわに見えなくなり、それっきり戻ってこなかった。
 ダーニクはいかめしい顔でエランドを見つめ、急に片目をつぶってみせた。ポルガラがエプロンで手ふきながら小屋からあらわれ、朝食の皿をあらっていたあいだにできあがった柵に目をとめた。ポルガラは物問いたげに夫を見やった。ダーニクは斧ではなくて魔術をつかっているところを見られて、ちょっときまりが悪そうだった。
「とてもいい柵だわ、あなた」ポルガラは勇気づけるように言った。
「そこにどうしても必要だったんだよ」ダーニクは弁解がましい口調だった。「あの牛たちが--とにかく、急いでやってしまわないと」
「ダーニク」ポルガラはやさしく言った。「この種のことにあなたの才能を使ったって、なにもいけないことはないわ--だからもっとよく練習したほうがいいんじゃないかしら」彼女はジグザグに組み合わさった柵を凝視し、一心になにかを思う表情になった。柵の継目が満開のバラのしげみで次々にしっかりと結び合わされた。「ほら」ポルガラは満足気に言うと、夫の肩をたたき小屋へひっこんだ。
「彼女はおどろくべき女性だ、おまえは知ってるかね、そのことを?」ダーニクはエランドに言った。
「はい」エランドは同意した。
 しかしポルガラは常に夫の冒険を喜ぶわけではなかった。カラカラ天気の暑い夏がおわりに近づき、庭の野菜がしおれはじめたときのことだった。ポルガラは午前中の大半をついやして、ウルゴランドの山脈上空に小さな黒い雨雲がうかんでいるのをつきとめ、そのしめりけを含んだ雲を〈アルダー谷〉のほうへ、とりわけ、乾ききった自分の庭のほうへそっと連れてくることにかかりきりになっていた。
 エランドが柵のそばで遊んでいたとき、丘の上に雨雲が低くたれこめ、西へ移動しはじめたと思うと、小屋と雨を待っていた庭の真上で静止した。馬具を修繕していたダーニクはちらりと目をあげて遊んでいる金髪の少年をながめ、その頭の真上の不吉な黒雲を見ると、不注意にも意志の力を働かせてしまった。なにかをはじくように片手をちょっと動かして、「しっしっ」と雲にむかって言った。
 雲はしゃっくりのような奇妙なけいれんをすると、ゆっくり東のほうへただよっていった。雲がひからびたポルガラの庭を通過して数百ヤード行ったとき、雨がふりだした--なにも植わっていない数エーカーの草地を水びたしにするほどのすてきなどしゃぶりだった。
 ダーニクは妻の反応に完全にふいをつかれた。小屋のドアがばたんと開き、ポルガラが目を三角にしてあらわれた。彼女は陽気に雨をふらせている雲をこわい目でにらみつけた。すると雨雲はまたあの奇妙なしゃっくりをして、うしろめたそうなようすを見せた。
 次にポルガラはふりかえって、いささか血走った目で夫をまっすぐ見すえた。「あなたがやったの?」雲をゆびさしながらつめよった。
「あ--ああ」ダーニクは答えた。「わたしがやったよ、ポル」
「なぜ?」
「エランドがあそこで遊んでいたんだ」ダーニクの注意はまだもっぱら馬具に注がれていた。「エランドをびしょぬれにしたくないだろう」
 ポルガラは雨を浪費している雲を見つめた。ぬれている草は十ヵ月の日照りも楽にのりこえられるくらい深い根を持っているのだ。それから彼女は自分の庭と、うなだれているカブの葉先と、いたましい豆に視線を移した。ポルガラは歯を固くくいしばって、厳格でまじめな夫が聞いたら腰をぬかすだろう悪態をのみこんだ。かわりに空を見上げ、両腕を嘆願するようにもちあげた。「どうしてなの?」ポルガラは悲痛な声をはりあげて難詰した。「どうして?」
「なあ、おまえ、いったいどうしたんだね?」ダーニクがおだやかに言った。
 ポルガラはわけを説明した--長々と。
 ダーニクは翌週いっぱいかかってくぼ地の上端からポルガラの庭に水をひき、ポルガラはその仕事が完了するとただちに夫のあやまちを許した。
 その年は冬の訪れがおそく、〈谷〉には秋がいつまでも腰をすえていた。雪がふりだす直前に双子のベルティラとベルキラがやってきて、ベルガラスとベルディンのふたりが何週間も話しあったすえに〈谷〉を出発したこと、ふたりともでかけるときは深刻な表情をうかべており、どこかで厄介事が起きたらしいことを、一同に告げた。
 その冬はベルガラスがいなかったので、エランドはさみしい思いをした。たしかに老魔術師はことあるごとにエランドをポルガラとのごたごたに巻き込んだが、エランドはなぜか、起きているときなら、たまにごたごたに巻き込まれても悪くないような気がした。雪がふると、かれはまたソリ遊びに没頭した。ポルガラはエランドが丘を急滑降して草原をすべっていくのを何度か観察したあと、去年の冬の失敗がくりかえされないように、小川の土手に防壁をつくることを抜け目なくダーニクに頼んだ。エランドをずぶぬれにさせないために、編み枝の垣根をたてていたとき、ダーニクはなにげなく小川の中を見た。小川にいつもそそぎ込んでいる泥まじりの細流が凍りついているために、小川はいつになく水位が低く、水晶のように澄んでいた。砂利でできた川床のすぐ上の流れの中に、細長いものが影のようにただよっているのがはっきり見えた。
「なんともおどろいたな」つぶやきながら、ダーニクの目が例の放心したような表情になった。「いままでここに魚がいたとはまるで気がつかなかった」
「ぼく、魚がとびはねているのを見ましたよ」エランドは言った。「でもたいていは、水がにごっていたから、底のほうにいても見えなかったんだ」
「そうか、だから気づかなかったんだ」ダーニクはうなずいた。かれは編み枝の柵のはじを木に結びつけると、雪をふんで小屋の裏手に建てた物置のほうへ歩いていった。まもなくでてきたときには、蝋びきの紐をひとまき手に持っていた。五分後、彼は釣りをしていた。エランドはにっこりして、がら長い斜面をとぼとぼのぼっていった。丘のてっぺんについたとき、頭巾をかぶった見なれない若い娘がかれを待っていた。
「なにか用ですか?」エランドはていねいにたずねた。
 娘は頭巾をはねのけた。彼女の目は黒いきれできつく目隠しされていた。「そなたがエランドなるものか?」その声は低く、歌うようで、古めかしいしゃべりかたは妙に音楽的だった。
「そうですけど」エランドは答えた。「目を怪我したんですか?」
[ 投稿者:づいたのは at 18:46 | づいたのは | コメント(0) | トラックバック(0) ]

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