掲示板お問い合わせランダムジャンプ



この広告は30日以上更新がないブログに表示されております。 新しい記事を書くことで広告を消すことができます。

2016年06月17日
スパーホークはうなず
「元気そうじゃないなんてことが考えられるか」スパーホークは笑った。
 それ以後の日々は飛ぶように過ぎていった。陰気な雪の中をむっつりと旅していた一行が、今では休日の遠出のようにはしゃいでいた。絶えることなく笑い声と冗談が飛旅行社び交い、天候のことなど気にする者は誰もいなかった。とはいっても、天気が大きく変わったわけではない。それからも雪はずっと降りつづいた。夜から午前中にかけてしんしんと降りつづき、毎日|午《ひる》ごろになると徐々に雨に変わる。降り積もった雪が雨で融かされ、道はいつまでもぬかるんだままだった。もっとも、おかげで積雪のために通れなくなるということもなかったのだが。ときおりアフラエルの笛の音が霧の中から聞こえてきて、一行を先へ進めとうながした。
 何日かしてスパーホークたちは、メージュク湾の鉛色の広がりを見下ろす丘の頂きに到着した。湾はなかば冷たい霧に覆われ、近くの岸辺には背の低い建物がかなりの規模で立ち並んでいた。
「たぶんあれはアルバクだな」カルテンは顔をぬぐって、しげしげと街を見つめた。「煙は見えない。いや、待て。一本だけ煙の出てる煙突があるぞ。ちょうど街のまん中あたりだ」
「行ってみたほうがいいでしょう。船を盗まなくちゃなりません」クリクが言った。
 一行は丘を下ってアルバクの街に入った。街路は舗装されておらず、雪が積もっていた。雪面は乱れておらず、それもまた街に誰もいないことを裏づけていた。薄く消えそうな唯一の煙は、中央広場らしい場所に面した、低い小屋のような建物の煙突から上がっていた。アラスが鼻をうごめかした。
「においから判断して、居酒屋だ」
 馬を下りた一行は小屋の中に入った。部屋は細長く、煤《すす》けた梁《はり》は低く、床にはかび臭い藁《わら》が敷かれていた。じめじめと冷たくて、嫌なにおyou beauty 陷阱いがする。窓はなく、部屋の奥にある暖炉の炎がただ一つの明かりだった。背中に瘤《こぶ》のある、ぼろを着た男が、椅子を蹴り壊して火にくべていた。スパーホークたちが入っていくと、男が叫んだ。
「そこにいるのは誰だ」
「旅人です。一夜の宿を探しています」セフレーニアが聞きなれないスティリクム語の方言で答えた。
「ここはだめだぞ。おれの場所だ」男は椅子の破片を暖炉に放りこみ、ごわごわの毛布にくるまって腰をおろすと、口を開けたビール樽を引き寄せ、両手を火の上にかざした。
「喜んでほかの場所へ行きますが、その前に情報をいただけますか」
「ほかの誰かに訊《き》くんだな」男はセフレーニアを睨《にら》みつけた。その目は左右が別々の方角を向いており、極度の近視のせいだろう、相手を斜めに見つめているように見えた。
 セフレーニアは藁を敷いた床の上を横切り、背中に瘤のある非協力的な男の前に立った。
「この街にはあなたしかいないようですが」
「そうだ」男はむっつりと答えた。「ほかのやつらは、みんなラモーカンドへ死ににいった。おれはここで死ぬ。そうすれば長いこと歩く必要もないからな。さあ、出ていってくれ」
 セフレーニアは腕を伸ばし、無精髭の伸びた顔の前に掌《てのひら》を突き出した。蛇の頭がちろちろと舌を出して起き上がる。斜視で近眼の男は戸惑って顔をあちこちに動かし、相手が何を持っているのか見定めようとした。と、男は驚きの声を上げ、腰を浮かせて椅子の上にひっくり返り、ビールの樽を蹴倒した。
「挨拶をするがいい」セフレーニアが無慈悲な声で言った。
「巫女《みこ》様とは知らなかったんです。どうかお許しください」男は切れぎれに哀願した。
「それはあとで決めよう。この街にはほかに誰もおらぬのか」
「誰もいません。わたしだけで。この身体じゃあ旅はできないし、ろくにものも見えないんです。だから置いていかれました」
「われらは別の旅人の一行を探しておる。男が四人と女が一人、男のうちの一人は白い髪をしておる。別の男はまるで獣のよう。おまえは見なかったか」
「どうぞ殺さないでください」
「では答えよ」
「昨日ここを何人か通っていきました。お探しの者たちかもしれません。顔がわかるほど近づいてこなかったんで、確かなことはわかりません。でも話は聞こえました。これからアーカへ行って、そこから首都へ向かうのだとか。タッサルクの船を盗んでいきました」背中に瘤のある男は床の上に座りこみ、うめきながら前後に身体を揺すりはじめた。
「狂ってるぞ」ティニアンがそっとスパーホークに耳打ちした。
「ああ」スパーホークが悲しげに答える。
「みんな行っちまった」男はつぶやきつづけていた。「みんなアザシュのために死にに行ったんだ。エレネ人を殺して、自分も死ぬ。アザシュは死が好きだ。みんな死ぬ。みんな死ぬ。みんなアザシュのために死ぬ」
「船をもらいます」セフレーニアが男のつぶやきを制した。
「持っていけ。持っていけ。誰も帰ってこない。みんな死んで、アザシュに食われるんだ」
 セフレーニアは背《そびら》を返し、仲間たちのところへ戻った。
「ここを出ましょう」その声は鋼《はがね》のようだった。
「あの人はどうなるの? 一人きりで、ほとんど目も見えないんだよ」タレンが沈んだ声で尋ねた。
「死ぬでしょう」セフレーニアがぶっきらぼうに答える。
「一人きりで?」タレンは気分Unique Beauty 好唔好が悪そうだ。
「死ぬときはみんな独りです」セフレーニアは決然とした足取りで一行の先頭に立った。
 だが外に出ると、教母はその場に泣き崩れた。
 スパーホークは鞍袋から地図を取り出し、顔をしかめてティニアンに話しかけた。
「なぜマーテルはアーカなんかに行くんだ。目的地から何リーグも離れているのに」
 ティニアンは地図を指差した。
「アーカからゼモックまでは街道が通じてる。だいぶ追い立ててやったから、たぶん馬が消耗してるんだろう」
「そんなところだな」いた。「それにマーテルは原野を走るのが好きじゃない」
「同じ道を追跡するか」
「それには及ばないだろう。やつは船には詳しくないから、湾を横断するのに何日かかかるはずだ。こっちにはクリクという元船乗りがいるから、まっすぐ目的地に向かうことができる。こっちの岸から首都まで、三日もあれば行き着けるだろう。マーテルの先を越せそうだな」スパーホークは従士に声をかけた。「よし、クリク、船を探しにいこう」
[ 投稿者:づいたのは at 11:29 | づいたのは | コメント(0) | トラックバック(0) ]

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック

この記事へのトラックバックURL
http://shinshu.fm/MHz/90.38/a15412/0000506184.trackback

この記事の固定URL
http://shinshu.fm/MHz/90.38/archives/0000506184.html

記事へのコメント
 
簡単演算認証: 6 x 6 + 5 =
計算の答えを半角英数字で入力して下さい。
名前: [必須]
URL/Email:
タイトル:
コメント:
※記事・コメントなどの削除要請はこちら