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2016年11月23日
にぶつかり

「となると、われわれはなんとしてでもあの外壁の内側へはいる必要がありますな」ジャヴェリンは一同に言った。かれはダーニクに目を向けた。「北の外壁の地面がやわらかくなっ

て、外壁をわけなくひき倒せるようになるまで、どのくらいかかると思いますか?」
 ダーニクはすわりなおして、テントの天井をにらんだ。「敵の不意をうつわけだから、水がいきなり噴き出すのはまずい--とにかく、最初は。じわじわとしみだすほうがはるかに

目だたないでしょう。地面がたっぷり水を吸い込むまでにはしばらくかかりそうです」
「しかも、われわれは細心の注意を払わなくてはならない」ガリオンがつけくわえた。「ウルフガーが本当に魔術師なら、必要以上の音を立てればすぐ気づかれてしまう」
「外壁が倒れるときは相当すごい音がするぜ」バラクが言った。「ジャーヴィクショルムの裏手の外壁をやったときみたいに、吹き飛ばしたらどうなんだ」
 ガリオンは首をふった。「意志の力をとき放ったあと、完全に無防備になる瞬間があるんだ。そのすきに同じような能力の持ち主に攻撃されちゃたまらない。生きて、正気のまま息

子を見つけたいからな」
「外壁の下の地面がびしょぬれになるまでどのくらいかかるでしょうな?」ジャヴェリンはたずねた。
 ダーニクは頬をかいた。「今夜とあす丸一日。あすの真夜中には、外壁はぐらぐらになっているはずです。そうしたら、攻撃の寸前にガリオンとわたしが水を一気に噴き出させて泥

の大半を押し流してしまいましょう。泥はすでにたっぷり水を吸ってやわらかくなっているだろうから、大量の水とともに外壁の下から流れだすはずです。そこへ向こう側から岩をぶ

つけ、引っかけ鉤の数十もあれば、あっというまに外壁をひき倒せるでしょう」
「投石器を使いはじめといたほうがいいぜ」ヤーブレックがマンドラレンに言った。「岩が空からふってくるという考えに敵を慣らしとくのさ。そうすりゃあすの夜外壁に岩ががんが

んあたっても、なんとも思わないだろうからな」
「それじゃ、あすの真夜中だな?」バラクが言った。
「そうだ」ガリオンはきっぱり言った。
 ジャヴェリンは姪を見た。「都市の北の地区の配置をおぼえているかね?」
 リセルはうなずいた。
「ざっと描いてみてくれ。いったん中へはいったら、どこに砦をおくか知っておく必要があるんだ」
「お風呂にはいったらすぐに描きますわ、おじさま」
「そのスケッチが必要なんだよ、リセル」
「わたしがお風呂を必要としているほどではないでしょう」
「あなたもよ、ケルダー」ポレン王妃が有無を言わせぬ口調で言った。
 シルクはリセルに意味ありげな一瞥をくれた。
「おかまいなく、ケルダー」リセルは言った。「わたしの背中はわたしが洗います、ご親切に」
「水を見つけにいこう、ダーニク」ガリオンはたちあがった。「地下にってことだが」
「そうだな」鍛冶屋は言った。
 言うまでもなく、月は出ていなかった。雲がこの一週間付近一帯にたれこめて、ますます空をぼんやり見せていた。夜気は冷たく、ガリオンとダーニクは包囲された都市のほうへむ

けて、浅い峡谷を慎重に移動していった。
「冷え込む夜だな」ハリエニシダのしげみを歩きながらダーニクがつぶやいた。
「うん。水はどのくらいの深さにあると思う?」
「そう深くないところにあるだろう。リセルにレオンの井戸の深さをたずねたら、どれもごく浅いと言っていた。二十五フィートもさがれば水が出ると思う」
「それにしても、どこからこんなことを思いついたんだい?」
 ダーニクは闇の中で低い笑い声をたてた。「若かったころ、えらくいばった農場主のところで働いていたことがあってね。そいつは家の中に井戸があったら、隣人たちが感心するだ

ろうと考えた。われわれは一冬井戸掘りに精をだし、ついに掘り抜き井戸に水をひいた。三日後、農場主の家は崩壊した。やつはひどく動転していたよ」
「そりゃそうだろうね」
 ダーニクはぬっとそびえている外壁を見上げた。「これ以上近寄る必要はないだろう。もし姿を見られて、われわれに矢を放ってきても、これだけ距離があれば命中させるのはむず

かしいからな。このまま北側へまわろう」
「そうだな」
 ふたりは物音ひとつたてまいと、念には念をいれて風にざわめくハリエニシダのしげみを慎重に進んでいった。
「ここでいいだろう」ダーニクがささやいた。「この地下になにがあるか見てみよう」
 ガリオンは都市の北の外壁のふもとにあるかちかちの地面の奥へ、静かに思考を沈めた。最初の数フィートはわかりづらかった。モグラやミミズにやたらにでくわしたからだ。いら

だたしげなキイキイ声がして、穴熊の邪魔をしたとわかったこともあった。しばらくたって岩の層、ガリオンは思考をその平らな表面をすべらせて裂け目をさがした。
「その左」ダーニクがつぶやいた。「割れ目じゃないか?」
 ガリオンはそれを見つけて、思考を下へはわせていった。深くなるにつれて、裂け目はじっとりしめりだしたようだった。「この下に水がある」ガリオンは小声で言った。「だが、

裂け目が狭すぎてしみだしてくる水はほんのちょっとだ」
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2016年10月26日
ソリをひきずりな
 夏が深まるにつれて、エランドはいつのまにかますますダーニクと一緒にすごすことが多くなった。エランドがすぐに見抜いたように、鍛冶屋はきわめて辛抱強い人間で、昔ながらの流儀をかたくなに守っていた。だがそれは、ベ優悅 避孕ガラスの言う〝わしたちにできる別のやりかた?への道義的偏見のせいではなく、むしろ、自分の手で仕事をすることに深い満足を見いだしているためだった。とはいっても、ダーニクもときには近道をした。エランドは鍛冶屋のごまかしには一定のパターンがあるのに気づいた。ポルガラやかれらの家庭のためになにかをするときは、ダーニクは絶対手抜きをしなかった。それがどんなに骨の折れる退屈なものだろうと、ダーニクは両手と筋肉をつかってそれを完了させた。
 しかし戸外の活動はダーニクの倫理感にそれほどかたく結びついていなかった。たとえば、二百ヤードの柵が、ある朝ばかにすばやく出現したことがあった。そこは柵が必要な場所だった。そのことは疑いの余地がなかった。柵が優悅 避孕ないと、近くに放牧されているアルガーの家畜の群れが水を飲みにいく途中で、ポルガラの庭をさんざん荒らしてしまうからだ。じっさい、柵はおどろいている牛たちの目の前にみるみる出現しはじめた。牛たちはあっけにとられて最初の五十フィートをながめたあと、しばらく考え込み、その障害物を迂回して歩きだした。すると、次の五十フィートが彼らの行く手にあらわれた。牛たちはだんだん気むずかしくなってきて、走りだそうとさえした。のろのろしているなりに、走ればこの目に見えない柵のつくり手をだしぬけると考えたのだろう。しかしダーニクは切株の上にすわり込んで目をすえ、毅然たる表情で、いらだちをました牛たちの前に次々と柵をのばしていった。
 一頭の焦げ茶色の牡牛がついにかんしゃくをおこし、頭をさげて前足で数回地面をひっかき、大きくほ優思明えながら柵に突進した。ダーニクは、片手をひねるような妙な動作をした。牡牛は突然柵からはねとばされ、そうとは知らずに半回転した。数百ヤード走ったところで、牡牛はまだ角《つの》がなににもぶつかっていないのに気づき、スピードを落としてあたふたと頭をあげた。疑わしげに肩ごしに柵をふりかえり、向き直ってふたたび突進しようとした。またもダーニクは牡牛を半回転させ、またも牡牛は見当違いの方向へ猛然と突進した。三度めに牡牛は丘の頂上へのぼりつめ、むこうがわに見えなくなり、それっきり戻ってこなかった。
 ダーニクはいかめしい顔でエランドを見つめ、急に片目をつぶってみせた。ポルガラがエプロンで手ふきながら小屋からあらわれ、朝食の皿をあらっていたあいだにできあがった柵に目をとめた。ポルガラは物問いたげに夫を見やった。ダーニクは斧ではなくて魔術をつかっているところを見られて、ちょっときまりが悪そうだった。
「とてもいい柵だわ、あなた」ポルガラは勇気づけるように言った。
「そこにどうしても必要だったんだよ」ダーニクは弁解がましい口調だった。「あの牛たちが--とにかく、急いでやってしまわないと」
「ダーニク」ポルガラはやさしく言った。「この種のことにあなたの才能を使ったって、なにもいけないことはないわ--だからもっとよく練習したほうがいいんじゃないかしら」彼女はジグザグに組み合わさった柵を凝視し、一心になにかを思う表情になった。柵の継目が満開のバラのしげみで次々にしっかりと結び合わされた。「ほら」ポルガラは満足気に言うと、夫の肩をたたき小屋へひっこんだ。
「彼女はおどろくべき女性だ、おまえは知ってるかね、そのことを?」ダーニクはエランドに言った。
「はい」エランドは同意した。
 しかしポルガラは常に夫の冒険を喜ぶわけではなかった。カラカラ天気の暑い夏がおわりに近づき、庭の野菜がしおれはじめたときのことだった。ポルガラは午前中の大半をついやして、ウルゴランドの山脈上空に小さな黒い雨雲がうかんでいるのをつきとめ、そのしめりけを含んだ雲を〈アルダー谷〉のほうへ、とりわけ、乾ききった自分の庭のほうへそっと連れてくることにかかりきりになっていた。
 エランドが柵のそばで遊んでいたとき、丘の上に雨雲が低くたれこめ、西へ移動しはじめたと思うと、小屋と雨を待っていた庭の真上で静止した。馬具を修繕していたダーニクはちらりと目をあげて遊んでいる金髪の少年をながめ、その頭の真上の不吉な黒雲を見ると、不注意にも意志の力を働かせてしまった。なにかをはじくように片手をちょっと動かして、「しっしっ」と雲にむかって言った。
 雲はしゃっくりのような奇妙なけいれんをすると、ゆっくり東のほうへただよっていった。雲がひからびたポルガラの庭を通過して数百ヤード行ったとき、雨がふりだした--なにも植わっていない数エーカーの草地を水びたしにするほどのすてきなどしゃぶりだった。
 ダーニクは妻の反応に完全にふいをつかれた。小屋のドアがばたんと開き、ポルガラが目を三角にしてあらわれた。彼女は陽気に雨をふらせている雲をこわい目でにらみつけた。すると雨雲はまたあの奇妙なしゃっくりをして、うしろめたそうなようすを見せた。
 次にポルガラはふりかえって、いささか血走った目で夫をまっすぐ見すえた。「あなたがやったの?」雲をゆびさしながらつめよった。
「あ--ああ」ダーニクは答えた。「わたしがやったよ、ポル」
「なぜ?」
「エランドがあそこで遊んでいたんだ」ダーニクの注意はまだもっぱら馬具に注がれていた。「エランドをびしょぬれにしたくないだろう」
 ポルガラは雨を浪費している雲を見つめた。ぬれている草は十ヵ月の日照りも楽にのりこえられるくらい深い根を持っているのだ。それから彼女は自分の庭と、うなだれているカブの葉先と、いたましい豆に視線を移した。ポルガラは歯を固くくいしばって、厳格でまじめな夫が聞いたら腰をぬかすだろう悪態をのみこんだ。かわりに空を見上げ、両腕を嘆願するようにもちあげた。「どうしてなの?」ポルガラは悲痛な声をはりあげて難詰した。「どうして?」
「なあ、おまえ、いったいどうしたんだね?」ダーニクがおだやかに言った。
 ポルガラはわけを説明した--長々と。
 ダーニクは翌週いっぱいかかってくぼ地の上端からポルガラの庭に水をひき、ポルガラはその仕事が完了するとただちに夫のあやまちを許した。
 その年は冬の訪れがおそく、〈谷〉には秋がいつまでも腰をすえていた。雪がふりだす直前に双子のベルティラとベルキラがやってきて、ベルガラスとベルディンのふたりが何週間も話しあったすえに〈谷〉を出発したこと、ふたりともでかけるときは深刻な表情をうかべており、どこかで厄介事が起きたらしいことを、一同に告げた。
 その冬はベルガラスがいなかったので、エランドはさみしい思いをした。たしかに老魔術師はことあるごとにエランドをポルガラとのごたごたに巻き込んだが、エランドはなぜか、起きているときなら、たまにごたごたに巻き込まれても悪くないような気がした。雪がふると、かれはまたソリ遊びに没頭した。ポルガラはエランドが丘を急滑降して草原をすべっていくのを何度か観察したあと、去年の冬の失敗がくりかえされないように、小川の土手に防壁をつくることを抜け目なくダーニクに頼んだ。エランドをずぶぬれにさせないために、編み枝の垣根をたてていたとき、ダーニクはなにげなく小川の中を見た。小川にいつもそそぎ込んでいる泥まじりの細流が凍りついているために、小川はいつになく水位が低く、水晶のように澄んでいた。砂利でできた川床のすぐ上の流れの中に、細長いものが影のようにただよっているのがはっきり見えた。
「なんともおどろいたな」つぶやきながら、ダーニクの目が例の放心したような表情になった。「いままでここに魚がいたとはまるで気がつかなかった」
「ぼく、魚がとびはねているのを見ましたよ」エランドは言った。「でもたいていは、水がにごっていたから、底のほうにいても見えなかったんだ」
「そうか、だから気づかなかったんだ」ダーニクはうなずいた。かれは編み枝の柵のはじを木に結びつけると、雪をふんで小屋の裏手に建てた物置のほうへ歩いていった。まもなくでてきたときには、蝋びきの紐をひとまき手に持っていた。五分後、彼は釣りをしていた。エランドはにっこりして、がら長い斜面をとぼとぼのぼっていった。丘のてっぺんについたとき、頭巾をかぶった見なれない若い娘がかれを待っていた。
「なにか用ですか?」エランドはていねいにたずねた。
 娘は頭巾をはねのけた。彼女の目は黒いきれできつく目隠しされていた。「そなたがエランドなるものか?」その声は低く、歌うようで、古めかしいしゃべりかたは妙に音楽的だった。
「そうですけど」エランドは答えた。「目を怪我したんですか?」
[ 投稿者:づいたのは at 18:46 | づいたのは | コメント(0) | トラックバック(0) ]

2016年08月12日
がさんざんてこ
 隊商は東ドラスニアの荒涼とした原野をゆっくりと曲がりくねって進んだ。らばの鈴の音がかれらの優思明後から悲しげについてきた。ようやく小さなピンク色のつぼみをつけ始めたまばらなヒースの茂みが、起伏の少ない丘を点々といろどっていた。空は陰うつな灰色におおわれ、冷たい風が北からたえまなく吹きつけた。
 ガリオンはいつのまにかまわりの原野と同じように憂うつなもの悲しい気分になっていた。いくら考えまいとしても避けようのない明白な事実がかれの前にあった。それはこう優悅 避孕している間にも着々とマロリーへ、トラクとの対決の瞬間に近づきつつあるということだった。かれの背中にくくりつけられた巨大な剣のつか[#「つか」に傍点]頭から間断なくささやきかける〈珠〉の歌も慰めにはならなかった。何といってもトラクは神なのだ--打ち勝ちがたい不死身の敵だった。そしてガリオンはまだ大人になってすらいないのに、神を探しだし、対決して死ぬためにマロリーへ向かっているのだ。ガリオンは死という言葉を心から締めだそうと必死になった。それはゼダーと〈珠〉の長い追跡行のときには一、二回の可能性に過ぎなかった。だが今回は動かぬ事実のように思えた。かれは一人ぼっちでトラクと対決しなければならないのだ。マンドラレンやバラクやヘターはその素晴らしい剣の腕前でかれを助けにこれないのだ。ベルガラスやポルおばさんも魔法を使って介入することはできないのだ。シルクとてうまく逃げおおせるようなうまい策略を考え出すことは不可能だ。猛り狂う無敵の暗黒の神はかれの血をもとめて襲いかかってくることだろう。ガリオンはしだいに眠ることが恐ろしくなってきた。眠りはいつまでも消えることなくつきまとう悪夢をもたらし、しかもそれは日いちにちと恐ろしいものになっていくのだった。
 かれは怖かった。刻一刻とつのりくる恐怖のせいで、口の中がいつも不快な味がした。何よりもかれは逃げ出したかった。だがそれが許されないことはガリオン自身がよく知っていた。第一逃げ出せるような場所がなかった。世界中広しといえども、かれの隠れられるような場所などありえない優思明のだ。万が一そんなことをしようものなら、たちまち神々が探しだし、ときの初めより定められていたあの恐ろしい対決へ容赦なくかれを連れ戻すことだろう。それゆえにガリオンはすっかり恐怖に怯えながら、かれ自身の死に着実に近づこうとしていたのである。
 一見鞍の上でまどろんでいるように見えて、そのじつ眠っていないベルガラスは、ガリオンの恐怖がその頂点に達するまで、鋭いまなざしで見守りながらも口出しはしなかった。そして鉛色の空が、まわりの風景と同じように陰うつに垂れこめたある朝、老人はガリオンのそばに自分の馬を寄せながら静かな声で言った。「あのことについて話したいか?」
「そんなことしたって何にもならないよ」
「少しは助けになるかもしれないぞ」
「ぼくを助けられるものなんて何ひとつないよ。ぼくはかれに殺されるんだ」
「もしそんなことになるとわかっていれば、はじめからおまえを旅立たせたりはしないぞ」
「そんなこと言ったって、いったいどうやって神と戦うんだ」
「勇気を出すことだ」不親切な答がかえってきた。「おまえはこれまでにもどうでもいいときにとんでもない勇気を出したじゃないか。あの頃と今とそんなに変わっているようには思えんがね」
「ぼくは怖いんだよ、おじいさん」ガリオンはついに告白した。その声は苦悩に満ちていた。
「今になってやっとマンドラレンの気持ちがわかったよ。恐怖がこれほどひどいものだとは思わなかった。とてもぼくには耐えられそうもない」
「おまえは自分で思っているよりはるかに強いんだぞ。必要ならどこまでも耐えられるさ」
 ガリオンはしばらく考えこんだ。だがあまり心の助けになったとは思えなかった。「かれはいったいどんなやつなんだい」ガリオンは突然病的な好奇心に駆られてたずねた。
「誰がだ」
「トラクだよ」
「傲慢のひとことにつきる。何としても虫の好かんやつだったな」
「たとえばクトゥーチクとか、アシャラクみたいなやつかい」
「違う。やつらはトラクのようになろうとしただけだ。むろん成功するわけがなかったが、それでもなろうと努めたのさ。もしおまえの助けになるなら言っておくが、トラクだって同じようにおまえを恐れているんだぞ。やつはおまえが誰なのかを知っている。やつと対決するのはしがないセンダリアの皿洗いガリオン少年などではない、リヴァ王ベルガリオンだ。かたわらにはトラクの血を求めてやまぬリヴァの剣がある。そしてやつは〈アルダーの珠〉を見るだろう。それこそトラクがもっとも恐れてやまないものなのだ」
「おじいさんが初めてトラクに会ったのはいつ頃のことなんだい」ガリオンは突然、老人の話を聞きたくなった--それもはるかかなたの昔のことを。昔話はこれまでもかれの救いになってきた。話にすっかり没頭しているあいだは、ほんのいっときだけでも嫌なことを忘れることができた。
 ベルガラスは短く刈りこんだ白い髭をかいた。「そうだな」老人はしばし考えこんだ。「初めてやつに会ったのはわたしがまだ〈谷〉にいた頃だったな。かなり大昔の話だぞ。そこにはベルゼダーやベルディンなどの仲間たちもいて、みなそれぞれの修業にはげんでおった。われわれの〈師〉は〈珠〉とともに塔へ引きこもり、一ヵ月以上姿を見せないこともしばしばだった。
 ある日のこと〈谷〉に見知らぬ客人が訪れた。身長はわしとさほど変わらないのに、歩くとまるで何千フィートもあるように見えたな。髪は真っ黒で、肌は抜けるように白く、瞳は覚えているかぎりでは緑色がかっていたような気がする。やつの顔は美男子といっていいほど整っていて、髪は何べんも櫛をいれているかのようにつややかだった。何というか、年がら年じゅう鏡をポケットに忍ばせてはしょっちゅう見ているような輩に見えたな」
「かれはおじいさんに何か言ったのかい」ガリオンはたずねた。
「ああ、言ったよ」ベルガラスは答えた。「やつはわれわれのところに来てこう言った。『わたしは兄、すなわちそなたらの〈師〉に話があって来たのだ』わしはそいつのしゃべり方がまったくもって気にくわなかった。まるでわれわれが召使いか何かのように見下げた口調でしゃべるんだ--まあ、それがやつの欠点だったんだがね。わしの場合は〈師〉ずった末に、最低限の礼儀をたたきこんでくれていたから、できるだけ礼儀正しく答えたのさ。
『おいでになったことを〈師〉に伝えてまいりましょう』とね。
 そうしたらやつは例の腹立たしいほど尊大な口調で言ったね。『その必要はない、ベルガラス。兄はわたしが来たことを先刻ご存じのはずだ』」
「どうしておじいさんの名前を知っていたんだろう」
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2016年07月26日
さきほどからわ
「あいつらはまたやってくるだろう」バラクはそう言うと、岩をまたひとつ持ち上げた。「うしろか消化系統ら攻めてくる可能性はないのか?」
 シルクは首を横に振った。「ないね。調べてみたが、この丘の裏は絶壁だ」
 下の森からまたもやアルグロスが姿をあらわしたかと思うと、あの半しゃがみの恰好で跳びながら吠え声やうなり声をあげた。先頭のアルグロスが道路を渡り終え乳鐵蛋白たとき、また角笛が鳴り響いた。今度はかなり近いところからだった。
 すると突然、よろいかぶとの男を乗せた巨大な馬が森の中から飛び出してきて、雷のような足音を立てながら手向かう獣にのしかかった。よろいかぶとの男は槍を低く下げ、慌てふためくアルグロスたちのど真ん中を一気に突き刺した。巨大な馬は突進しながら一声いななき、蹄鉄をつけたひづめでぬかるんだ大きな泥のかたまりをはね上げた。もっとも大きな拔罐アルグロスの一頭をしとめた槍は、その一撃の激しさで折れてしまった。折れた槍の先は、さらにもう一頭を正面から突き刺した。騎士は折れた槍を捨てると、今度は大きな弧を描きながらだんびらを引き抜いた。それを左右に荒々しく振り回しながら、かれは群れのあいだを突き進み、軍馬は道路の泥とおなじように生者と死者をともども踏みつけた。最後まで突き進むとかれはくるりと向きを変え、ふたたび刀で道を開けながら今来た道をもどった。アルグロスはきびすを返し、吠えながら森の中に逃げこんだ。
「マンドラレン!」ウルフは叫んだ。「こっちだ!」
 よろいかぶとの騎士は、血が飛び散った面頬を上げて丘を見上げた。「まず、怪物の群れを追い散らしてしまったことをお詫びしておきますよ、長老どの」かれは陽気にそう言うと、面頬をもどし、アルグロスを追って雨に湿った森の中に飛び込んでいった。
「ヘター!」バラクはそう叫びながら、すでに行動を開始していた。
 ヘターはきっぱりうなずくと、バラクといっしょに馬に駆け寄った。それから鞍に飛び乗るや、見ず知らずの男を助けるために湿った斜面をまっしぐらに下りていった。
「あなたの友だちは、分別というものがかなり欠如してますな」シルクはミスター?ウルフにそう言って、顔から雨をぬぐった。「あいつらは今にも反撃してくるでしょうに」
「自分が危険にさらされているとは思いもおよばんのだろう。かれはミンブレイト人なのだ。かれらはどうも自分を無敵だと考える傾向にある」
 森の戦いは延々とつづきそうな気配だった。叫び声やバサッという剣の音に加えて、アルグロスの悲鳴が聞こえる。やがて、ヘターとバラクと見知らぬ騎士は馬に乗って森の中から抜け出し、岩山を小走りに駆けのぼった。頂上につくと、よろいかぶとの男はガチャガチャと音をたてながら馬をおりた。「ようこそ、長老どの」かれはミスター?ウルフに景気よく言った。
「下にいたあなたの仲間はすごく元気なひとたちですね」かれのよろいは雨に濡れて輝いている。
「きみに喜んでもらえてなによりだ」ウルフは素っ気なく言った。
「まだ声が聞こえてますよ」ダーニクが報告した。「まだ逃げてるんでしょうね」
「あいつらが臆病なおかげで、午後の楽しみがだいなしになってしまった」騎士はそう言うと、無念そうに剣を鞘におさめ、かぶとを脱いだ。
「わざわざいけにえをふやすこともないでしょう」シルクは気取って言った。
 騎士はため息をついて、「なるほど、そのとおりだ。おぬしはなかなか冷静な男だ」かれは頭を振ってかぶとの白い羽から水を払いおとした。
「これは失敬」ウルフが言った。「こちらはマンドラレン、ボー?マンドール男爵だ。かれにはわしらの仕事を手伝ってもらう。マンドラレン、こちらはドラスニアのケルダー王子。それとバラク、チェレクのアンヘグ王のいとこにあたるトレルハイム伯爵だ。あそこにいるのはアルガー人の王、チョ?ハグの子息のヘター。そこにいる仕事のできそうな男はセンダリアの善人、ダーニク。そしてその坊主はガリオン、わしの孫だ--何世代も省略しての話だが」
 マンドラレンは各人に深々とお辞儀をした。「ようこそ、わが同志」かれは例のにわか景気の声で言った。「われわれの冒険は幸先のいいスタートをきったようですな。ところで、たしの目を惹きつけて離さない、その美しい女性はいったいどなたです?」
「お上手ですこと、騎士どの」ポルおばさんは、ほとんど無意識に濡れた髪を手でかきあげながら、ほがらかに笑った。「わたし、この方を好きになってしまいそうだわ、おとうさん」
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2016年07月20日
いた以上に頭がいい
「言語道断だ!」ダーニクはまだ耳をほてらせたまま頑強に言った。「あの娘にはたしなみとい嬰兒濕疹うものがまるでない。だれに報告すればいいかがわかれば、文句を言ってやるところだ」
「びっくりしたね」内心ダーニクの狼狽ぶりをおもしろがりながら、ガリオンは同意した。かれらは雪の舞う中庭を突っきった。
 鍛冶場をとりしきっているのは、二の腕がガリオンの太腿ほどもある黒ひげの巨漢だった。ダーニクが自己紹介すると、二人はたちまち鍛冶屋のハンマーの伴奏に合わせて楽しそうに商売談義をはじめた。ガリオンが気づいたのは、センダリアの鍛冶場を埋めつくしていた鋤や踏みぐわ、くわに代わって、ここでは剣、槍、戦闘用の斧が壁にかかっていることだった。炉のひとつで見習人が矢尻をハンマーでたたいており、別の炉ではやせた片月の男がぞっとするような短剣をこしらえていた。
 ダーニクと鍛冶屋は昼近く嬰兒濕疹まで話しこんでいたので、その間ガリオンは中庭をぶらついてさまざまな職人たちの仕事ぶりを観察した。桶屋に車大工、靴屋に大工、だれもがアンヘグ王の大所帯を維持するために仕事にいそしんでいた。ガリオンは見物しているあいだも、昨夜目撃した緑のマントの砂色のひげの男を捜し求めた。誠実な仕事がおこなわれているこの場所にあの男がいる見込みは薄かったが、それでもかれは注意を怠らなかった。
 正午ごろ、バラクが二人を捜しにきて、大広間にかれらを連れ戻した。そこではシルクがぶらぶらしながら熱心にサイコロ賭博を見物していた。
「アンヘグや他のみんなはきょうの午後密談をしたがっている」バラクは言った。「おれはひとっ走り行ってくる用事ができたんで、あんたたちも一緒にきたくないかと思ってね」
「それは悪くない考えだな」シルクは賭博から視線をひきはがした。「きみの親類の戦士連中はサイコロ賭博がへたくそだな。二、三度一緒にころがしてみたいところだ中醫骨傷科が、やめておいたほうがよさそうだ。よそ者に負けたらたいていの連中は気を悪くするからね」
 バラクはニヤッとした。「連中はきっと喜んであんたにふらせるぜ、シルク。勝つチャンスはあんたに負けないぐらいある」
「東にのぼる太陽が西にのぼるような確率だろうよ」とシルク。
「そんなに自分の腕に自信があるんですか?」ダーニクがたずねた。
「連中の腕に、だよ」シルクはくすくす笑って、ぴょんとはねた。「行こう。指がむずむずしてきた。誘惑から指を遠ざけないとな」
「なんとでも言うさ、ケルダー王子」バラクは笑った。
 かれらはそろって毛皮のマントをはおり、宮殿を出た。雪はほぼやんでいたが、風は肌を刺すように冷たかった。
「わたしはみなさんの名前にちょっとまごついているんです」ヴァル?アローンの中心部へ向かっててくてく歩きながら、ダーニクが言った。「一度訊こうと思っていたんですが、たとえばあなたです、シルク。あなたはケルダー王子でもあり、ときにはコトゥの商人アンバーでもある。ミスター?ウルフはベルガラスと呼ばれているし、マダム?ポルもレディ?ポルガラとかエラト公爵夫人とか呼ばれています。わたしの出身地では、通常、人はひとつの名前しか持っていないものなんですが」
「名前は衣服みたいなものなんだ、ダーニク」シルクは説明した。「われわれはそのときに応じてもっともふさわしい名を利用する。正直者は風変わりな衣服や名前を使う必要がほとんどないが、われわれみたいな真っ正直でない者は、ときどき名前を使いわけなけりゃならないんだ」
「マダム?ポルが正直でないと形容されるのを聞くのは、よい気持ちではありませんね」ダーニクは硬い声で言った。
「侮辱する気は毛頭ないよ」シルクはきっぱり言った。「単純な定義はレディ?ポルガラにはあてはまらない。それにわたしがわれわれは正直ではないと言うのは、われわれの関与しているこの問題が、不正にしてよこしまな連中から正体を隠すことをときとして要求するという意味なんだ」
 ダーニクはまだ納得がいかぬふうだったが、それ以上追求はしなかった。
「この通りを行こう」バラクが言った。「きょうはベラー神殿の前を通りたくないんだ」
「どうして?」ガリオンはたずねた。
「宗教上の義務をちょっと怠っているんでな」バラクは苫しげな表情で言った。「ベラーの高僧に出くわしてそのことを思いだしたくない。かれの声はよくとおるし、町全体の面前で叱責されちゃたまらん。分別ある男は公衆の面前で坊主や女に文句を言わせるチャンスを与えたりしないもんだ」
 ヴァル?アローンの通りは細く曲りくねっていて、古い石造りの家々はひょろりと背が高く、二階部分が突きだしていた。断続的に降る雪と冷たい風にもめげず、通りは毛皮をしっかり着込んだ人々であふれていた。
 上機嫌の叫び声やみだらな侮辱の応酬があたりを満たしている。ある通りのまん中では、年配の威厳たっぷりの男が二人、見物人の耳ざわりな声援をあびて雪の玉を投げつけあっていた。
「あの二人は古い友だち同士なのさ」バラクがにやにやしながら言った。「長い冬のあいだ、毎日ああやっている。もうすぐ仲良く居酒屋へ行って酔っぱらい、椅子からころげおちるまで昔の歌をうたうんだ。もう何年もそれをつづけている」
「夏はどうするんだ?」シルクが訊いた。
「石のぶつけっこさ。飲んでうたって椅子からころげおちるのは同じだがね」
「こんにちは、バラク」緑の瞳の若い娘が二階の窓から呼びかけた。「いつまたわたしに会いにきてくれるの?」
 バラクはちらりと上を見て顔を赤くしたが、答えなかった。
「あの女の人が話しかけているよ、バラク」ガリオンは言った。
「聞こえた」バラクはひとこと答えた。
「きみを知っているようだが」シルクがいたずらっぽい顔で言った。
「だれのことでも知っているんだ」バラクはますます赤くなった。「行かないか?」
 もうひとつ角を曲がると、むくむくの毛皮にくるまった男の一団が一列になって足をひきずるように歩いていた。左右にゆれるような妙な足取りで、人々があわてて道をあけている。
「やあ、バラク卿」一団のリーダーが節をつけて言った。
「やあ、バラク卿」他の面々が依然左右にゆれながら声をそろえた。
 バラクはぎごちなく一礼した。
「ベラーのお力が汝を守らんことを」リーダーが言った。
「アロリアの熊神、ベラーをたたえん」残りが言った。
 バラクはまた一礼して、行列が通りすぎるまで立っていた。
「どういう人たちだったんです?」ダーニクが訊いた。
「熊神崇拝者たちさ」バラクは嫌悪をこめて言った。「狂信者どもだ」
「厄介な一団でね」シルクが説明した。「アローンのすべての王国に支部を持っているんだ。すばらしい戦士なんだが、ベラーの高僧の手先でもある。儀式や軍事訓練に時間を費し、地元の政治に干渉するんだよ」
「かれらが言ったアロリアってどこにあるの?」ガリオンはたずねた。
「おれたちのまわりが全部そうさ」バラクが大きな身ぶりをした。「アローンの全王国をひとつにしたのが昔はアロリアだったんだ。もとはひとつの国だったんだよ。あの崇拝者どもは諸国を再統一したがっている」
「むちゃな望みではないように思えますがね」ダーニクが言った。
「アロリアが分割されたのは、ある理由のためなんだ」バラクは言った。「どうしても守らなけりゃならないものがあって、そうするにはアロリア分割が最善の方法だったのよ」
「そんなに重要なものとはなんだったんです?」とダーニク。
「この世で一番重要なものなんだ」シルクは言った。「熊神崇拝者たちはともすればそのことを忘れてしまう」
「ただ、今それは盗まれちゃったんでしょう?」ガリオンはだしぬけに言った。頭の中のあの乾いた声が、バラクとシルクがたった今言ったことと、突然崩壊したかれ自身の人生とのつながりをガリオンに教えた。「ミスター?ウルフが追いかけているのはそれなんだ」
 バラクはガリオンにすばやく目を走らせて、真顔で言った。「この若いのはおれたちが思ってぜ、シルク」
「かれは賢い少年だ」シルクも同意した。「すべてをつなぎ合わせるのはむずかしいことじゃない」イタチのような顔はまじめそのものだった。「もちろんきみの言うとおりだよ、ガリオン。どういう手を使ったのかまだわれわれにはわからないが、だれかがそれをまんまと盗んだんだ。ベルガラスが命令をくだせば、アローンの王たちはこの世をばらばらにしてでもそれをとり戻すだろう」
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2016年07月12日
っていたことだが
 ガリオンは頑固に首をふった。「わからないな。どうしてそんなことでカル=トラクはこわがったんだろう?」
「さあね」クラルトは言った。「そSCOTT 咖啡機のわけは聞いたことがないな」
 物語には不満が残ったものの、ガリオンば決闘を再現しようというランドリグのいささか単純な計画にすぐ賛成した。一日かそこら剣がわりの棒で互いに身がまえたり突きあったりしたあと、ガリオンは遊びをもっとおもしろくするには何か道具が必要だと考えた。ポルおばさんの台所からやかんがふたつと大きななべの蓋がふたつ、不思議にも消えてなくなり、今や兜と楯で身をかためたガリオンとランドリグは剣を交えSCOTT 咖啡機るために足繁く静かな場所へかよった。
 何もかもうまく運んでいた二人の遊びが一転したのは、年上で背も高く力も強いランドリグが、ばか力を出して木の剣でガリオンの頭をたたいたときだった。やかんのふちがガリオンの額にくいこんで血が流れだした。突然耳鳴りがし、異常な興奮をおぼえて、ガリオンは地面から起きあがった。
 その後何が起きたのかさっぱりわからない。かろうじておぼえているのは、カル=トラクに挑む叫び声が口からほとばしりでたことだけだったが、その言葉さえガリオSCOTT 咖啡機ンには理解できなかった。目の前のランドリグの見なれたまぬけ面が無残に崩れた醜悪な顔にとってかわり、ガリオンは頭の中に煮え立つようなほてりを感じて、狂ったようにその顔に何度も棒をふりおろした。
 やがて嵐がさり、ガリオンの足もとには逆上した攻撃に気を失ったあわれなランドリグが倒れていた。かれは自分のしたことにちぢみあがったが、同時に強烈な勝利を口中に味わった。
 そのあと、農園内の怪我の手当を一手にひきうけている台所で、ポルおばさんが余計な口は一切きかずに二人の手当をした。ランドリグの傷はそうひどくはなさそうだったが、顔は早くも腫れあがって数ヵ所が紫色になりはじめ、最初は目の焦点がなかなか合わなかった。頭に冷湿布をし、ポルおばさんのせんじ薬のおかげでランドリグはみるみる回復した。
 しかしガリオンの額の切り傷にはもう少し用心が必要だった。おばさんはダーニクに少年をおさえつけさせると、針と糸をとって袖の裂けめでも縫うように平然と傷口を閉じあわせ、その間患者の口から発せられるわめき声には耳も貸さなかった。彼女が関心を示したのは、総じて、二少年の一騎打ちの怪我よりもへこんだやかんのほうらしかった。
 縫合がすむとガリオンは頭痛がして、ベッドへ運ばれた。
「少なくともカル=トラクはやっつけたよ」かれはポルおばさんにうわごとのように言った。
 彼女は鋭くガリオンを見つめた。「トラクのことをどこで聞いたの?」と問いつめた。
「カル[#「カル」に傍点]=トラクだよ、ポルおばさん」ガリオンは辛抱強く説明した。
「質問に答えるのよ」
「農夫たちが--クラルトじいさんやみんなが--ブランドやボー?ミンブルやカル=トラクなんかの話をしていたんだ。ランドリグとぼくはその真似をして遊んでいたんだよ。ぼくがブランドで、ランドリグがカル=トラクさ。残念ながら楯のおおいをはずすところまでいかなかったけどね。そうなる前にランドリグに頭をたたかれたんだ」
「よくおきき、ガリオン」とポルおばさんは言った。「注意深くきいてもらいたいのよ。二度とトラクの名を口にするんじゃありません」
「カル[#「カル」に傍点]=トラクだってば。ただのトラクじゃなくて」ガリオンはくり返した。
 次の瞬間おばさんの手がとんだ--そんなことをおばさんがしたのははじめてだった。横っ面をはたかれて、ガリオンは痛いというよりびっくりした。それほど強い平手打ちではなかったからだ。「いいこと、二度とトラクの名をしゃべってはいけないよ。絶対に! これは大事なことなのよ、ガリオン。あなたの身の安全がかかっているのよ。約束してちょうだい」
「そんなに怒らなくたっていいじゃないか」ガリオンは傷つけられた口調で言った。
「約束しなさい」
「わかった、約束するよ。あれはほんの遊びだったんだ」
「大変おろかな遊びですよ。ランドリグを殺してたかもしれないのよ」
「ぼくはどうなのさ」ガリオンは文句を言った。
「あなたには決して危険はおよばないわ。さあ、もうお休み」
 怪我とおばさんに飲まされた奇妙な、苦い飲み物のせいで、頭がふらふらし、うとうとしていると、おばさんの低い豊かな声が、「ガリオン、わたしのガリオン、あなたはまだ若すぎるわ」と言うのが聞こえたような気がした。しばらくして、魚が銀色の水面へ浮上するように深い眠りから目ざめたかれはぼんやりとおばさんの声を聞いた。「おとうさん、あなたが必要なんです」それからかれは再び不穏な眠りにひきずりこまれ、黒い馬にまたがった黒い姿につきまとわれた。男は冷たい憎悪と恐怖めいたものを漂わせてガリオンの一挙一動を監視していた。そしてその黒い姿の背後に、これはポルおばさんにも黙、ランドリグと戦っていたときに垣間見たのか、それとも想像なのか、邪悪な物言わぬ木に生《な》る恐るべき果実のような、醜くくずれた顔が隠れていることをガリオンは知っていた。
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2016年07月07日
感じはゼある
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早起きする。サロンのペンキ塗り。元美術家だから、超念入り。ジャズの専用ラジオ局をSCOTT 咖啡機聴きながら。黙々と手は動いているのだけれど、頭の中は聴こえてくる曲の分析をしている。ゆっくりと昼食。赤ワインを一杯。子牛のレバー、パセリ風味を作る。それから試しにきゅうりのキムチ。こちらはまあまあである。

コーヒーを飲みながら、携帯で玉割りゲーム。なんどやっても三ツ星にならず嵌る。そりゃそうだ、レベル900とかとんでもなく難しいやつなのである。でも、一時間ぐらSCOTT 咖啡機開箱いで制覇した。煙草を買いに行く。ついでに冷凍食品店へ。いわしの開き。おっ、蒲焼みたいにするのだ。サーモン、握り寿司にする。鴨のコンフィ。今晩食べるのである。

それからブログを書いている。書き終わったらピアノの練習。夕飯の準備???、夜はユーチュ腰痛治療ーブで浅野温子さんと三上博史さん主演のサスペンス「共犯者」を見る。平和だねぇー、ったく。

新しい仕事は夏と冬が閑散期だからいい感じになる。嫌でも夏休みと冬休み。まあ、九月から十二月中旬ぐらいまでへろへろ状態になるから、今のうちに充電。

サロンのペンキ塗りをしながら、ジャズ専用ラジオ局をずっと聴いていた。その時、何度も思い出した私の師匠、トランペッター沖至の言葉がある。お会いした頃であるから、今から十七年前。その頃、沖師匠は「世界的即興ユニット」であるリヨンの「アルフィー」と共演していた。並行して、私とも共演してくれていた。「アルフィー」のコンサートを聴きにいってライブハウスでビールを飲みながら、師匠とお話。たぶん、私の渋い顔を察したはずである。「なぁー、イサオ。なんかさ、上手過ぎて、完璧過ぎてうんざりしない? 聴いてる方は?」とおっしゃった。ジャズジャイアントの一言としては?だった。でも、少しずつ分かってきた。沖至がジャズジャイアントであることを。たぶん、私への励まし?とも詮索してみた。十七年後の現在は、そうではなかったと思う。私を、だけではなくて、私のようなものを心底評価してくれていたのである。なにか別のレベルの評価である。

ジャズの専用局をずっと聴いていて、沖師匠の言葉が身に染みた。ジャズの本質はなんなのか? いや、ジャズじゃなくて、人間の本質なのであろう。音にすべてが出る。

不思議である。私が敬愛していたコルトレーン。なんか音が重苦しい。つまり、押し付けがましい。あまり、いいと感じない。そして、そんなには上手い人ではない。不器用だ。エリック?ドルフィーを聴くと、彼の天才振りがよく分かる。コルトレーンが鬱陶しい野郎と思っていたような気がする。でも、ドルフィーの音は、音楽馬鹿の音で押し付けがましい意味、阿部薫も、なぜかそういう音に聴こえる。とんでもない自己中なんだけれど、彼は、ほとんど三途の川の向こうに生きている頃から行っている音である。これは、驚異。
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2016年06月30日
いないから力が


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2016年06月17日
スパーホークはうなず
「元気そうじゃないなんてことが考えられるか」スパーホークは笑った。
 それ以後の日々は飛ぶように過ぎていった。陰気な雪の中をむっつりと旅していた一行が、今では休日の遠出のようにはしゃいでいた。絶えることなく笑い声と冗談が飛旅行社び交い、天候のことなど気にする者は誰もいなかった。とはいっても、天気が大きく変わったわけではない。それからも雪はずっと降りつづいた。夜から午前中にかけてしんしんと降りつづき、毎日|午《ひる》ごろになると徐々に雨に変わる。降り積もった雪が雨で融かされ、道はいつまでもぬかるんだままだった。もっとも、おかげで積雪のために通れなくなるということもなかったのだが。ときおりアフラエルの笛の音が霧の中から聞こえてきて、一行を先へ進めとうながした。
 何日かしてスパーホークたちは、メージュク湾の鉛色の広がりを見下ろす丘の頂きに到着した。湾はなかば冷たい霧に覆われ、近くの岸辺には背の低い建物がかなりの規模で立ち並んでいた。
「たぶんあれはアルバクだな」カルテンは顔をぬぐって、しげしげと街を見つめた。「煙は見えない。いや、待て。一本だけ煙の出てる煙突があるぞ。ちょうど街のまん中あたりだ」
「行ってみたほうがいいでしょう。船を盗まなくちゃなりません」クリクが言った。
 一行は丘を下ってアルバクの街に入った。街路は舗装されておらず、雪が積もっていた。雪面は乱れておらず、それもまた街に誰もいないことを裏づけていた。薄く消えそうな唯一の煙は、中央広場らしい場所に面した、低い小屋のような建物の煙突から上がっていた。アラスが鼻をうごめかした。
「においから判断して、居酒屋だ」
 馬を下りた一行は小屋の中に入った。部屋は細長く、煤《すす》けた梁《はり》は低く、床にはかび臭い藁《わら》が敷かれていた。じめじめと冷たくて、嫌なにおyou beauty 陷阱いがする。窓はなく、部屋の奥にある暖炉の炎がただ一つの明かりだった。背中に瘤《こぶ》のある、ぼろを着た男が、椅子を蹴り壊して火にくべていた。スパーホークたちが入っていくと、男が叫んだ。
「そこにいるのは誰だ」
「旅人です。一夜の宿を探しています」セフレーニアが聞きなれないスティリクム語の方言で答えた。
「ここはだめだぞ。おれの場所だ」男は椅子の破片を暖炉に放りこみ、ごわごわの毛布にくるまって腰をおろすと、口を開けたビール樽を引き寄せ、両手を火の上にかざした。
「喜んでほかの場所へ行きますが、その前に情報をいただけますか」
「ほかの誰かに訊《き》くんだな」男はセフレーニアを睨《にら》みつけた。その目は左右が別々の方角を向いており、極度の近視のせいだろう、相手を斜めに見つめているように見えた。
 セフレーニアは藁を敷いた床の上を横切り、背中に瘤のある非協力的な男の前に立った。
「この街にはあなたしかいないようですが」
「そうだ」男はむっつりと答えた。「ほかのやつらは、みんなラモーカンドへ死ににいった。おれはここで死ぬ。そうすれば長いこと歩く必要もないからな。さあ、出ていってくれ」
 セフレーニアは腕を伸ばし、無精髭の伸びた顔の前に掌《てのひら》を突き出した。蛇の頭がちろちろと舌を出して起き上がる。斜視で近眼の男は戸惑って顔をあちこちに動かし、相手が何を持っているのか見定めようとした。と、男は驚きの声を上げ、腰を浮かせて椅子の上にひっくり返り、ビールの樽を蹴倒した。
「挨拶をするがいい」セフレーニアが無慈悲な声で言った。
「巫女《みこ》様とは知らなかったんです。どうかお許しください」男は切れぎれに哀願した。
「それはあとで決めよう。この街にはほかに誰もおらぬのか」
「誰もいません。わたしだけで。この身体じゃあ旅はできないし、ろくにものも見えないんです。だから置いていかれました」
「われらは別の旅人の一行を探しておる。男が四人と女が一人、男のうちの一人は白い髪をしておる。別の男はまるで獣のよう。おまえは見なかったか」
「どうぞ殺さないでください」
「では答えよ」
「昨日ここを何人か通っていきました。お探しの者たちかもしれません。顔がわかるほど近づいてこなかったんで、確かなことはわかりません。でも話は聞こえました。これからアーカへ行って、そこから首都へ向かうのだとか。タッサルクの船を盗んでいきました」背中に瘤のある男は床の上に座りこみ、うめきながら前後に身体を揺すりはじめた。
「狂ってるぞ」ティニアンがそっとスパーホークに耳打ちした。
「ああ」スパーホークが悲しげに答える。
「みんな行っちまった」男はつぶやきつづけていた。「みんなアザシュのために死にに行ったんだ。エレネ人を殺して、自分も死ぬ。アザシュは死が好きだ。みんな死ぬ。みんな死ぬ。みんなアザシュのために死ぬ」
「船をもらいます」セフレーニアが男のつぶやきを制した。
「持っていけ。持っていけ。誰も帰ってこない。みんな死んで、アザシュに食われるんだ」
 セフレーニアは背《そびら》を返し、仲間たちのところへ戻った。
「ここを出ましょう」その声は鋼《はがね》のようだった。
「あの人はどうなるの? 一人きりで、ほとんど目も見えないんだよ」タレンが沈んだ声で尋ねた。
「死ぬでしょう」セフレーニアがぶっきらぼうに答える。
「一人きりで?」タレンは気分Unique Beauty 好唔好が悪そうだ。
「死ぬときはみんな独りです」セフレーニアは決然とした足取りで一行の先頭に立った。
 だが外に出ると、教母はその場に泣き崩れた。
 スパーホークは鞍袋から地図を取り出し、顔をしかめてティニアンに話しかけた。
「なぜマーテルはアーカなんかに行くんだ。目的地から何リーグも離れているのに」
 ティニアンは地図を指差した。
「アーカからゼモックまでは街道が通じてる。だいぶ追い立ててやったから、たぶん馬が消耗してるんだろう」
「そんなところだな」いた。「それにマーテルは原野を走るのが好きじゃない」
「同じ道を追跡するか」
「それには及ばないだろう。やつは船には詳しくないから、湾を横断するのに何日かかかるはずだ。こっちにはクリクという元船乗りがいるから、まっすぐ目的地に向かうことができる。こっちの岸から首都まで、三日もあれば行き着けるだろう。マーテルの先を越せそうだな」スパーホークは従士に声をかけた。「よし、クリク、船を探しにいこう」
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2016年06月02日
任せるしか方法
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教習車に実車である『何十年ぶりだろう?』同輩たちは口々に懐かしさと初めて免許を取得した頃の昔牛奶敏感を語り合っていたが、それぞれの会話からは誰もが自分が高齢者だと思っている人はいない様子だ。運転席に本人が座り助手席に教官、後部座席に次の二人が待機すると昔の教習風景が甦って全員が無言になり緊張を感じていた。


通常の教則コースを指示されて一周、各位自信に満ちたハンドル捌きだが、人によってはハラハラ母乳餵哺させられる。S字クランク、上り坂の停止?発進、縦列駐車に進路変更合図??日頃運転に馴れているとはいえ、助手席にチェッカーがいると矢張り緊張があるものだ。減点の対象も無ければ免許の剥奪もないが『ハイッ!合格です??』に胸を撫で下ろしたことだった。


全員に奇妙なアクションを指示された。縁石に対して前輪を当て停止させた体勢からアクセルを母乳餵哺踏み込んで縁石に乗り上げ??同時に急ブレーキ(停止)の号令である。何とも奇妙な訓練だ。教官の説明では都心の駐車場ビルなどで転落事故やアクセルとブレーキの踏み違い事故が多発している為急遽組み込まれた特別教則だという説明であった。自動車の運転と道路事情、免許所持者のルールとマナーについても考えさせられた一日であり、高齢化と共に事故の多発と認知症を疑うドライバーがいることも知らされた。


総仕上げは恒例の恐怖心を煽る映画鑑賞だったが、年長さんの夫々が体力の衰えを自覚したのではなかったかと思ったことである。飲酒運転に纏わる「ハンドルキーパー?の話し、高齢者の免許返上と身分証のことなど各自治体でも頭の痛い諸問題があるようだ。いつ免許証を返納すべきか???年齢だけでなく健康状態や運動能力を各自が自覚しその時期を悟るべきであろうと考えさせられた。


さて私の場合はどうだろう。八十歳(傘寿)か八十一歳(半寿)の誕生日に照準を合わせてブレーキを踏むことにするか??? 生命の裁定は神佛にはないが、煩悩の数を減らし??酒を断ち、紫煙も断って「一切の乗り物」?から降り、残る最後のハンドル迄を取上げるというのは少し酷だろう??独り頭の中を廻らせる「ムスターファ」の午後である。

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