掲示板お問い合わせランダムジャンプ

2018年04月23日
て翌日に予定されて

  ●東京・首相官邸


  青葉若葉をわたる風のさわやかな五月がきたが、東京の、宮城をぐるりとかこむ中心部は、いぜんとして気分のさっぱりとしない憂鬱な毎日がつづいている。日独伊三国同盟をめぐる政治的混乱はいっそう拍車をかけている。


  町には独ソ接近の噂にも近いニュースが流れ、新聞も確信なげにそれを報じていた。街角には「三国同盟即時締結せよ」などのビラが張られ、雑誌などにはポーランドをめぐる英独開戦はもはや必至という観測記事がのりはじめる。


  平沼内閣は一部にある交渉打ち切り論をしりぞけて、なお独伊との交渉を継続することにきめたものの、五相が一致せねば何事もきまらず、外からはなんと悠々閑々たることかとあきれられている。一日も早く協定を結びたい陸軍中央はやきもきした。平沼首相の尻をたたき、一種の恫喝まがいの圧力を加えて、五月三日、ヒトラーとムッソリーニにたいして首相のメッセージを直接に送って局面打開をはかる工作を成功させた。ところが五相会議で、外相有田と海相米内の強い抗議に首相が譲って、平沼メッセージは陸軍の期待に反して、かなり腰くだけのものとなった。


  「日本としては独伊がソ連以外の第三国より攻撃をうけた場合も、独伊側に立ち、政治的、経済的援助を与え、かつ可能なる武力援助を行う決意である。ただ武力援助についてはいまは諸事情によりただちにこれを行えない実状にある。もっとも将来可能なるときにはこれを与うるのは当然である」


  陸軍中央としては、武力援助をするのかしないのか、はっきりとしない不満足の残る文面ではあったが、内閣を存続させるためには、これでよしとせざるをえない。メッセージはフランス語に訳され、在日本の独伊両国大使をとおして、本国へ打電されていった。


  折もよくというか悪しくというか、その同じ日の夜、ベルリンの大島大使が、ドイツの条約局長ガウスによる私案なるものを、日本政府に報じてきた。私案のミソは「参戦義務言明」などの問題事項を正式表明とせず、交換公文にするというところにあった。交換公文とは両政府間のとりきめとしていくつかの事項を秘密としておく、ただし条約と同じ効力をもつ、というものである。


  焦燥にかられていた陸軍中央は、がぜん色めきたった。ただちに省部の関係課長の会議がひらかれる。陸相板垣はその結果をもって、六日の午後に、有田、米内、石渡荘太郎蔵相を歴訪して、ガウス案の全面的受諾を表明、そして翌日に予定されている五相会議では、陸軍の総意によき返事をよろしく、と迫った。


  ところがその夜、大島からの長文電報が入ってきた。それは前日の五日、ミュンヘンからかけてきた外相リッベントロップの電話の内容を伝えたもので、外相はいったという。


  「総統は三日付の平沼メッセージを読んだが、どうも日本の態度にはっきりしないところがあって、同意しがたいといっている。平沼が言う『武力援助を行う決意である』とは、要するに、独伊が攻撃をうけたさい日本が有力な武力援助を行えない場合でも、ただちに交戦国関係に入る覚悟がある、と解しても誤りなきや」


  大島はいともあっさりと即答した。


  「そのとおりです」


  これがのちに問題となる。確言できるだけの、なんらの決定もまだ日本ではなされていない。


  また、こうも外相はいったという。


  「実はガウス案を私も一見したが、まだ読んでいない総統が、この内容で了承するか否か、どうにも確言できない」


  大島の電報は、明らかに、ヒトラーが留保条件のついた条約締結には不同意であることを示している。ヒトラーはもともと、いい訳がましいあいまいな言説は嫌いなのである。なにやら混乱して道筋のたたないことになった。ガウス案も平沼メッセージ案もいざとなると宙に浮きそうである。


  三宅坂上は日一日と殺気だっていく。この議が起ってより半歳をへるというのに事態はわけがわからなくなっていくいっぽうである。日本の参戦は自主的に決定する、それでいいではないか。腰抜けの海軍どもがいつまでも女々しいことをいってい るのが許せなくなってきた


[ 投稿者:手裏撐著雨傘 at 18:15 | 健康 | コメント(0) | トラックバック(0) ]

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック

この記事へのトラックバックURL
http://shinshu.fm/MHz/62.79/a00114/0000550959.trackback

この記事の固定URL
http://shinshu.fm/MHz/62.79/archives/0000550959.html

記事へのコメント
 
簡単演算認証: 5 x 8 + 5 =
計算の答えを半角英数字で入力して下さい。
名前: [必須]
URL/Email:
タイトル:
コメント:
※記事・コメントなどの削除要請はこちら