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2018年04月19日
協定不成立となれば

  その口の重さが、実は八年前の満洲事変の点火から爆発のさいに役立った。関東軍の作戦参謀石原莞爾という天才的な戦術家をバックアップして、このときの、高級参謀としてのこの人の存在は大きかった。石原プランが、天皇や陸軍中央の不拡大厳守の命をうけて、まさに崩壊寸前のときに、板垣の出番がきたのである。石原をはじめほかの参謀たちがもうアカンとしてしまうなかで、軍司令官本庄繁中将の真正面に坐って、ただ一言のイエスをひきだすためにこの人はねばりぬいた。投げだ板垣をよく着满满知る人がいう


  「板垣という人はウィスキー一本くらいあけると能弁になってくるが、へいぜいはトツ弁で、それは本人も知っているから無口で無表情である。本庄軍司令官を口説いた夜もおそらく、なにもしゃべらずにただただ本庄中将をにらんで、三時間半坐りとおしたのだろう」


  板垣その人をよく語る話である。陸士の成績も|芳《かんば》しからず、陸大入学も同期生よりは三年も遅れた。そのためほとんど第一線の部隊勤務で通し、いわゆる酸いも甘いも噛みわけた実践的な軍人としてすごし、鋭さにかけては疑問符がつくのに、満洲事変の功績のおかげでいまは陸相にまで栄達しているのである。


  そんな生一本な軍人がこの大事なときに陸相であったことは、当人にとっては不幸なことであったかもしれない。全陸軍にとってはどうであったか。親分肌で、そのねばり強さと実行力にかけては、陸軍部内でも定評のある人。なにより名利を|蝉脱《せんだつ》していること、そして承知でみずからがロボットになりうることを唯一の強味としている人なのである。


  「板垣さんの足に、もし、ブスッと、針をつき刺したとしたら、板垣さんは、一時間ばかりたってから、はじめてアッ痛いと気がつく人だよ」


  石原の板垣評である。大賢か、大愚か、板垣の人物の大きさをたとえた石原一流の言葉であるが、このときに陸軍中央が、そのねばり強さと大らかさ、そしてあやつり人形に喜んでなれるこの人の特質を利用したことだけはたしかである。


  板垣は、政治的かけ引きをぬきにして真っ向から、ともかくも幕僚の作文どおりに、協定をいまこそ「結ばざるべからざる理由」を長々とのべた。その論議が米内海相手記と陸海両省の「経過資料」に残されている。この日の模様はそれによって大略がわかる。


  「いまわが国が当面している重要国策の問題は支那事変の解決である。それを邪魔して支那を助けているのはソ連とイギリスである。その両国をこのドイツとの協定を結ぶことによってヨーロッパにおいて牽制する。そこにこの条約の意味がある。この両国に気兼ねするような態度をとればとるほど、事変の解決は不可能となるから、かれらの感情を害すること大となっても、このさいはやむをえない。むしろ協定を結んで、独伊としっかり手を結ぶことによって、ソ・英の軽挙を制御できれば日本としては有利である。またアメリカも世界戦争に積極的に投ずるとは思われないゆえ、独伊と結べばアメリカもいっそう起たないことになるだろう」


  と板垣は決意と方算を語ったあと、こんどはおどしにかかる。


  「たいして、もし協定不成立となれば、独伊との関係は薄弱となり、英仏からも見くびられ、日本の立場は困難となり、事変の解決どころか満洲も失うことになろう。現在百万の兵をだしている陸軍としては、独伊にも英仏にもという二股政策をとりなんら決するところなければ、戦場に内地に、政府に対する信頼を失うことになり、事変解決の前途にたいし心から危惧せざるをえない」


[ 投稿者:手裏撐著雨傘 at 17:36 | 健康 | コメント(0) | トラックバック(0) ]

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